ふきのとうホール レジデントアーティスト
小菅優コンサートシリーズ Vol. 2 ドイツ歌曲の夕べ
共演:ミヒャエラ・ゼーリンガー (メゾ・ソプラノ)
2019年12月7日 プログラムノートより
ベートーヴェンの死後、彼の引き出しの中に二つの女性のミニチュアの肖像画と、郵送することなく保管されていた手紙が発見されました。「私の天使、私のすべて、私自身よ」と始まる「不滅の恋人」の名で知られているこの熱烈なラヴレターが誰への手紙なのか、今まで何人もの研究者によって解明しようとされてきました。特にこの作品「遥かなる恋人に」は、そのベートーヴェンの相手へのメッセージなのではないかと言われ続けてきました。
ベートーヴェンはたくさんの歌曲を残しましたが、この作品は6つの歌が絶え間なく続けて歌われる連作歌曲となっています。作詩は当時医学生だったヤイテレスという21歳の若い青年で、遠く離れる愛する人への憧れが、美しく切ない自然の描写とともに語られています。その景色と季節の中を旅しながら、様々な感情が滲み出てきて、最後の曲(6番)「この歌を聴いてくれ、愛する君のために歌ったこの歌を」では慰めのようなメロディで歌われ、「そして君は僕の歌を歌う」で初めて相手側を想像します。(この最後のテーマはシューマンも妻クララへの気持ちを表しているピアノソロのための「幻想曲 Op. 17」で使っています。)このクライマックスの後、ピアノでまた最初のテーマに戻り、輪廻転生するようなラストで終わります。最後まで憧れが続くが掴むことのできない愛。この切ない心境は、ベートーヴェン自身の恋を表しているのでしょうか。